2008年10月29日

我、言挙げすー髪結い伊三次8

081029.jpg宇江佐 真理の『我、言挙げす―髪結い伊三次捕物余話』を読んだ。
髪結い伊三次シリーズの8作目。

宇江佐 真理は、数多の時代小説作家の中でもずば抜けてうまい人だと思う。
ゆったりとした江戸情緒あふれる文章、余韻のある終わり方。
しっかりした時代考証や会話と相まって初めから最後まで安心して江戸の世界に浸れるのだ。

「あい、お気の毒」
「わっちはいい人のとこに行くよ」
「いっち大事なんだ」
「おきやがれ!てめぇはそんなことも斟酌できねえのか!」
等々、出てくる会話がなんとも小気味良い。

たとえば「居眠り磐音」の最新刊では、時の将軍家治の継嗣家基のお忍びのときに、おこんが臆面もなく話しかけたり、奉行所の与力が同心を小者みたいに従えてふらふら町歩きをしてたりで興醒めする場面も多々あるが、宇江佐真理の話ではありえない。
なんてったって江戸時代は厳然とした階級社会なのだと分かる。

でもこの人の一番の良さは人物。
描く人物がみんなとてもいい。

それぞれが根っこはいい人たちなんだけど、冷たいこと言ってみたり、ウソついてみたり、イラついてどなってみたり、迷惑かけたり、なまけたり、要するに普通の人間ならみんな持っているような負の部分もちゃんと描いている。

どうしようもないならず者がする自分の罪の言い訳が、そりゃ言い訳だ、おまえが悪いんだと思いつつ、同情してしまうようなとこもあって、悪いことは悪いんだけど、ただ責める気にもなれずに、なんともやるせない気持ちになったりする。

かと思うと、市井の人たちの小さな生活の中にある小さな喜びや幸せもきちんと描いていて、気持ちがほんわか暖かくなるのだ。

今回は伊三次が主役の話よりも、龍之進やお文など周りの人たちが主役の話が多かった。
特に龍之進は、前作くらいからか、ぐっと登場シーンが多くなっている。

伊三次ももちろん好きだけど、まだまだ青臭い龍之進もかなりいい感じだ。
青年ならではの正義感と融通の効かなさ、人情の機微をくみ取るにはいかにも若いのだけれど、これから成長していくといい男になるんだろうなと期待させる。

龍之進の淡い恋心を描く「黒い振袖」、龍之進が正しいばかりがすべてじゃないことを学ぶ表題の「我、言挙げす」どちらもとても良かった。

その他の話もいいのばかりだったな。
でも、最後、そんなとこで終わるの?
海外ドラマのシーズンの最後みたい。

早く続きを読ませてー!
posted by けろけろ at 16:37| Comment(0) | books | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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